清掃員と経営者

男性の呼びかけに瑠美は振り返った。
そこには前の会社を退職する原因になった張本人がいた。


「しょ… 坂本さん…。」


前は「翔太くん」と呼んでいたが、そんな親しさが仇になり退職する事になった事を思い出して、苗字で呼び直した。


「やっぱり瑠美ちゃんだった。久しぶりだね、色々迷惑掛けて…」

「あの…仕事中なので、失礼します。」


かなえと茜がこちらを不思議そうに見ている。足早に去ろうとしたが、瑠美の腕を翔太は軽く掴んで引き止めた。


「ごめん…。連絡したかったんだけど、着信拒否されてるようだったし。今夜少し時間ないかな…。きちんと説明したいから…。」


矢継ぎ早に小声で囁く。
瑠美は翔太の言葉に戸惑ったが、彼の必死な様子とかなえや茜に気付かれたくない気持ちで、翔太を見て頷く。


「分かった、いつもの居酒屋で。」

「ありがとう。待ってるから…」


お互いに小声で会話を交わし、瑠美は2人の元へ走った。
合流するや否や茜が興味津々とばかりに目を輝かせている事に気付き、「ゴメンね」と顔の前で手を合わせる。


「中々のイケメンだね。まさか、元カレ?」

「違うよ、前の会社の人。ちょっと驚いただけ。」
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