清掃員と経営者
会社まで戻る時に茜が思い出したように声を上げた。
「そういえば、さっきかなえさんが言ってた『見えない汚れ』ってどういう意味ですか?」
「わ、私も気になってました。」
会計の後、「あーお腹いっぱーい」なんて茜と言いながらすっかり忘れていたが、少し意味深なセリフだったので瑠美も気になっていた。
2人の言葉にかなえは少し思わせぶりに考え微笑んで振り返る。
その仕草は可愛らしくて、思わず同年代にも見えてしまった。
「さっき主任に会って貰うって言ったでしょ。詳しくは主任から説明があると思うんだけど、私達清掃員は殆どの部署に入室出来るカードキーを所持してるの。つまり色々な社員の業務態度や休憩中の素行を目にする事が出来る…」
「それって…」
「あら。瑠美ちゃんは鋭いわね。清掃員ってのは“肩書き”よっ!」
瑠美はかなえの話を聞きながら思い出していた。渡瀬が仕事内容について「それだけではない」と微妙な言い回しをしていた。
それは元々の社員が嫌がる仕事。そして面が割れていても遂行し辛い業務。
すっかりかなえの前置き話で妄想が膨らんで、気付けば会社のエントランスまで着いていた。
かなえは考え込んでいる様子の瑠美を見て、
「あらあら、そんな深刻に考える程大変な仕事じゃないのよ。ふふふ。」
とフォローしながら笑っていた。
清掃室へ向かい3人で受付を通り過ぎた時に、1人の男性が声を掛けてきた。
「瑠美ちゃん…?」