殺戮都市~バベル~
持つべき信念
流された新崎さんが見えなくなって、雨もいよいよ本格的に降り出した。


「おい、少年!とりあえずこのビルの中に入るぞ!」


吹雪さんは慌てた様子でビルの中に入ろうと走って行ったけど、恵梨香さんはそんな様子を見せずに、俺が動くのを待っているようだ。


「……恵梨香さんは、何の為にあの塔に行こうとしているんですか?もしもこの先、吹雪さんが死んだとしたら、それでも仕方がない事だと言えますか?」


俺の質問に不思議そうに首を傾げる。


俺は、何の意味もない質問をしようとしているのかもしれない。


尋ねた相手は恵梨香さんだ、きっとしっかりした考えを持っているに違いない。


そしてそれは、俺が共感出来るような物ではないのだろうな。


「……今言わなければダメなのか?中に入ってからでも……」


「今答えてください!!」


新崎さんをどうする事も出来ずに、ただ流されて行くのを見ただけの俺は、どうしても納得出来る答えが欲しかった。


そうでなければ……この場から動けそうになかったから。


「……前にも話したと思うが、あの塔に何があるのかはわからない。だが、わからないからこそ、希望を信じたいんだ。どんな可能性だってゼロじゃないからな。そして吹雪が死んだらという話だが……それはない。私がいるからな」


納得……出来たわけじゃない。


だけど、さらに激しく降り始めた雨の中、俺は一歩踏み出した。
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