【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
〇〇


「有明様。宵菊です」


「入れ」


シュッと襖が開いて、相変わらず艶やかな宵菊が姿を見せた。


「…執務中でしたか」


有明の持つ細長いカードのようなものを見て尋ねる。


「ああ。でも、気にするな」


憑かれたように見ているそれには、筆で書いたであろう流れるような文字。

それが歌であることは一目で分かる。

宵菊が『執務中』と呼ぶのは、他に表せる言葉の見つからない時間だからだ。


「貴女様が面白い冗談を仰ったようで。私は他の者からからかわれてばかりおりますのよ?」


「私が冗談を?」


髪飾りを手で弄り、ふと有明が宵菊に視線を向けた。


「まぁ、ひどいお方ですこと。私を男などと偽ったくせに」


「…別に、あの娘の反応を見るのに丁度良かったからだ。他意はない」


正真正銘、宵菊は女である。


「あの娘の空気は澄んでいるのだ。一緒にいると、こう、苦しくなる──」


胸の辺りを押さえ俯いた有明に、宵菊は歩み寄ることができない。

陽の気に当てられ、陰の気が薄れたのかもしれない。

自分でも分かっているだろうに、それでもきっと告げれば焦るのだ、この主は。

目的を達成するために全てを捧げてきた主を壊すことはできない。


「だから、襲撃などと?」


自分が壊れる前に。 


「それとも、露李ちゃんに恨まれるために?」


恨みを持てば、その澄んだ空気を消せるだろうと。


「私はもう引き返すつもりはないのだ」



どちらともだということは、その答えが示していた。






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