【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
〇。〇・〇゜〇

牢の中。


「有、明様…」


真っ暗な中、美喜はぽつりと呟いた。


「何つったぁ?今。悪ぃ聞いてなかった」


外側にもたれていた睡蓮が大きな声で聞き返す。


「そんな頓狂な声上げないでよ」


「悪ぃって。つか大丈夫かお前」


「大丈夫よ。…でも、すごくあの方らしい仕置きだなと思ったのよ」


自嘲気味に笑い、自分の体を見る。

暗闇の中でも微かに光を放っている。


「あの方らしい?」


怪訝そうな睡蓮に頷いてみせ、また壁にもたれた。


「そうよ。私はあの方の『陽』、今のあの方は『陰』。魂を分けるとき、そういうやり方をしたのよ」


「それと美喜にどんな関係があんだよ?」


「…私は、暗闇では目が見えないの」


「動いてなかったか?前」


「今、力に枷がついてるから。夜は目が見えるようにコントロールしてるのよ」


ふうん、と納得したように相槌を打ち、睡蓮は腕を組んだ。

筋肉が程よくついた二の腕には、忠誠の証の印が捺されている。

焼き印ではなく、術によるものだ。    


「目が見えないってことは、逃げ出すこともできないってこと。力が出ないってことは合図が送れないってこと」


「俺が逃がしたらどうすんだよ」


しんとした牢に、美喜の無邪気な笑い声が響いた。


「何がおかしい?」


「だってあんたはそんなことしないでしょう?」


有明様の昔を知っているから、と締め括る。


「私が生まれて、皆は良い顔をしなかったわ。秋雨も、宵菊も、星月夜も、水無月も。ああ勿論、あんたもね」


「そりゃそうだろ──十六年前、有明さま本体が望んで『陰』になったんだからな」



十六年前。


彼女は、自ら怨みだけで生きることを望んだ。

そのために美喜を作ったのだ。


『陽』──有明の良心そのものを引き離すために。


「有明様が陰である限り、俺たちは陰の気しか持てない──」



瓜二つである美喜の笑顔。


それは、まさしく有明の昔の姿。


『共に来い。…別に、私に損はないからなっ』


睡蓮の頭の中に、出会った日の彼女の声が甦った。




今でもそれは、耳から離れない───。











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