溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


「違うって。本当に」

「じゃあ、なんなんですか!早く服をなおしてください!」

「違うんだ。紫苑」


名前を呼ばれて、息がつまるような苦しさを感じた。

最高に感じの悪い先輩SPは、なぜか私を切なそうな表情で見つめていた。

どうしてそんな瞳で、私を見るの?


「とにかく……俺と結婚しろ」


また出た。わけがわからない。

私を辞めさせたいのなら、なぜ求婚なんてする。しかも、上から目線で。

多少ムカついているのに、それとは違う胸がざわざわする感じ。

しかも、体温が上昇していくような気さえする。

これは、何?


「無理です。会ったばかりの人と結婚なんて」


マヌケにも正統な意見で返した私を、新城さんは茶化すことなく見つめたまま。


「時間なんて関係ねえよ」

「ありますよ。だいたい結婚は、二人が愛し合ってするものか、お互いの利害が一致してするものでしょう?私と新城さんの間には何もありません」


そう言うと、新城さんの眉間に深いシワが寄った。

反撃成功か?

新城さんの手が、壁から離れていく。

同時に私たちの距離も開き、やっと解放された安堵感でため息が出た。


「……今すぐは無理か」


独り言のように言ったかと思うと、うつむいていた新城さんはぱっと顔を上げる。


「仕方ない。今日は引き下がろう。けど、覚えておけ。俺は必ず、お前を寿退庁させてやる」

「えっ」

「お前から俺と一緒になりたいって、言わせてやるよ」


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