溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「えっと……服……」
もともとモノを増やすのが好きではなく、必要なものは一人暮らしをしているアパートに持っていってしまったため、クローゼットにも服はほとんどなかった。
しかたなく、母が記念にしまっておいたのであろう高校生の時のジャージを引っ張りだし、着替える。
一晩寝ると、気持ちはだいぶ落ち着いていた。
エレベーターに閉じ込められてパニックに陥った時、新城さんが言っていた。
『怖がらなくていい。俺がお前を、全身全霊をかけて守るから』
きっとあれは、冗談でも、その場しのぎでもなかったんだ。そう信じたい。
『大丈夫。暗闇も狭さも、怖くない。俺たちは大人になったんだ。もうあの時のようなことは起こらない』
きっと私は、大人になる前、新城さんと会ったんだ。
そして、エレベーターの中でパニックになるような……“何か”が起きた。
この推測が正しければ、すべての謎の答えは新城さんが知っている。
彼が私の、心の鍵を握っている。
そう思えば、不思議と怖くはなかった。
ここまできたら、もうごまかすことはできない。
私は、新城さんを男として、意識している。信用もしている。
もっとシンプルに言うのなら、『好き』ということになるのだろう。