契約結婚の終わらせかた
プロローグ~結婚しろ、ただし愛はなしだ



黄色い液体を、おたまですくってはガラス容器に注いでく。

甘い甘いそれは、バニラの香りでいつも小さな幸せを運んでくれる。


「ご、ろく……10。よし、こんなものかな?」


粗熱を冷ましたガラス容器を、冷やすためにトレーごと冷蔵庫に入れる。


(みんな喜んでくれるかな?)


きっと期待しているだろう子ども達の顔を思い浮かべて、自然と頬が緩むのを感じる。


その時はまさか、このお菓子ひとつで私の人生が変わってしまうなんて。夢にも思っていなかった。










4月にもなると、だいぶ夕暮れが遅くなる。午後5時はまだ昼間のように明るい。それでもちょっと太陽は傾いていて、東の空から雲が金色や紫色に染まる。


「うめえ!」


夕暮れ時の空に、子どもの声が響いた。


「ほら、ね! 碧(あお)お姉ちゃんのプリンおいしいでしょ」


得意そうな顔でプリンを口にする男の子の賢(けん)くんを眺める女の子は、心愛(ここあ)ちゃん。ともに近所の小学生だ。


「マジで碧姉ちゃんのプリンうめえな」


パクパクとプリンを食べていた賢くんだけど、途中でスプーンを止めてそっとフタを閉めた。


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