空っぽのイヤホン(仮)
「好きな人がいるの。」

「ほう。」

「でもね、夏が終わったら引っ越すんだって。」

愛子先生の興味があるのかないのかわからない相槌が心地いい。

もう一口ミルクを飲み込む。

愛子先生からまっすぐな視線を感じるけれど、気付かないフリをした。

あのウサギみたいな目で見つめられたら、なんとなく全部見透かされてるような気分になるから。

「ねえ、みっこちゃん。」

「ん?」

「また会う約束、したの?」

「したよ。」

キュッと眉を寄せる先生。

「内緒にしてるの?」

愛子先生のその言葉に、私は返事をしなかった。

「ごちそうさまでした。」

マグカップを机に乗せて、立ち上がる。

みっつ並んだベッドのうち、窓際のベッドに腰掛けた。
ここのベッドが1番気持ちいい。
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