溺愛ドクターは恋情を止められない
しばらく呆然と立ち尽くす。
だけど、どうしても家を訪ねる勇気はなくて、再び来た道を戻ろうとした。
でも、その時……。
マンションの出口に人の気配を感じて思わず物陰に隠れると、見覚えのある人が高いヒールをカツカツ言わせて出てきた。
酒井先生、だ。
白衣姿ではない酒井先生は一層女性らしく、美しかった。
いつもはひとつに束ねている長いサラサラの髪をなびかせて、一目で上質とわかるワンピースに身を包んだ彼女は、病院で見るよりずっと魅力的。
私なんて……やっぱり必要なかった。
溜息をつきながら酒井先生の姿を見ていると、高原先生も出てきた。
「悪かったな」
「いいのよ。ついでだから」
酒井先生は優しく微笑み、マンションの前に止めてあったBMWに乗って去っていった。