溺愛ドクターは恋情を止められない

しばらく呆然と立ち尽くす。
だけど、どうしても家を訪ねる勇気はなくて、再び来た道を戻ろうとした。

でも、その時……。

マンションの出口に人の気配を感じて思わず物陰に隠れると、見覚えのある人が高いヒールをカツカツ言わせて出てきた。

酒井先生、だ。
白衣姿ではない酒井先生は一層女性らしく、美しかった。

いつもはひとつに束ねている長いサラサラの髪をなびかせて、一目で上質とわかるワンピースに身を包んだ彼女は、病院で見るよりずっと魅力的。

私なんて……やっぱり必要なかった。
溜息をつきながら酒井先生の姿を見ていると、高原先生も出てきた。


「悪かったな」

「いいのよ。ついでだから」


酒井先生は優しく微笑み、マンションの前に止めてあったBMWに乗って去っていった。
< 86 / 414 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop