有害なる独身貴族


『ここに来る客は、旨い料理を食べたくてくるんだ。よく考えろ』


普段ヘラヘラした店長の厳しい顔に、私はひどくショックを受けた。

そしてこの経験から、私は自分の考え方を変えた。

それまで、人に迷惑をかけないようにしなきゃって思ってた。
自分の仕事は自分で責任もってやらなきゃって。

でもそれが結果としてお客様の為にならないのなら意味が無い。

タイミングを逃さないためなら、人に頼んだほうがいい。

職場仲間に迷惑をかけないようになんて思うのは間違いで、仲間だからこそ協力しあわなきゃいけないんだって。


それを伝えたら、数家さんは「房野は接客、向いてるな」って、笑ってくれた。


だから上田くんを巻き込みつつ頑張っているのだけど、少ない人数で回していれば無理が出てくるのも事実だ。
あちこちで呼ぶ声が聞こえ、私達はあたふたして、一瞬動きが止まってしまう。


「俺が行くよ。二人は順に担当場所から」


私達が立ち止まったことに気づいたのか、数家さんがフォローに入る。
そして我に返って、上田くんと顔を見合わせる。

そう。こんな時のために、担当場所を区切っているのだ。

重なったら、自分の担当を優先して処理していく。

手に余るように見えても、順番をつければ一つ一つこなすことができる。

数家さんは、私達たちにその順序付けのルールを教えてくれる。


この店に入って良かったな、と思うのは、人間としてきちんと育ててもらっている気がするからだ。

私がここの仕事を決めた時、本当に色々あったけど、今はこれで良かったんだって胸を張って言える。

それが、……とても嬉しい。

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