有害なる独身貴族


「行ってきます、おばあちゃん」


一人暮らしの小さな部屋の一角にある写真に手を合わせる。

丸顔に丸いメガネをかけたふんわりした印象のおばあちゃん。

私はメガネではないけれど、丸顔に丸目なところがおばあちゃんに似てると言われる。

童顔に見えるこの丸顔は好きじゃないけど、似てる、と言われる事自体は嬉しかった。



大丈夫、おばあちゃん。
私、食べれてるし、仕事もしてるし、元気だよ。


心の中で告げて、そして目を伏せてもう一言追加する。


ごめんね。


写真を見るたび、胸が痛む。

でも家族と思えるのはおばあちゃんだけだったから、不安だったり誰かに相談したいときは、おばあちゃんに話しかけるしかない。


「なんか緊張するよ。何話せばいいんだろう。ねぇ、おばあちゃん」


“大丈夫よ。いつものように笑ってなさい”


きっと、そう言ってくれるであろう言葉を思い起こして、部屋を出る。


緊張しすぎて、浮かれた気分にはならなかった。


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