裏口から店に入り、すぐに厨房に向かった。

トントンとまな板と包丁が奏でるリズムは、私の立てる物音で一度動きを止める。
腰をひねるようにして私を見るのは、店長こと片倉さん。


「おう、つぐみ。調子良くなったか」

「はい。色々ありがとうございました。あの、これ……」


自分の肩の高さまで紙袋を上げてみせると、店長は了解したとでも言うようにウンウン頷く。


「そこ置いておいて」


なんだ、今見てくれないのか。
ちょっと残念に思いつつ、ペコリと頭を下げて着替えに向かう。

歩き出した私の背中に、店長からの優しい声。


「良かったな。元気になって」


言葉に気持ちがこもっているときは、体に染みこんでくるような気がする。

おばあちゃんがくれたのと一緒の優しさ。
普段どんなに店長がふざけていても、こういう時にくれる言葉が、私を捉えて離さない。


「……店長のご飯、美味しかったですから」

「やっぱ食いもん大事だなー。はは」


目を細めて笑ってくれる。
ドキドキするのと同時に胸がほんのり温かい。

自然に顔が笑っちゃって、はっと気づいて慌てて手で隠して正面を向いたら、モップを手にした数家さんがこっちを見ていた。


「おはよ、房野、大丈夫か?」

「は、はいっ」

「無理するなよ」


にやけた顔、見られたかな。
絶対変な顔してたはずだけど。

数家さんは、いっつも笑顔だけど、逆にあれがポーカーフェイスになっていて感情が読めない。
からかわれるなら、店長みたく分かりやすくからかってもらったほうが気が楽っていうか……。

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