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11月。葉月部長がやってきて、ひと月が経過した。


9時45分の営業部のフロアは、そろそろ外回りに出掛けようとしている社員達で活気付いている。

私もこれから出掛けようとしていた。


仕事鞄にパンフレットや資料を挟んだファイル、タブレットを入れていると、隣のデスクから立花萌の大きな溜息が聞こえてきた。


「はぁぁ〜」


チラリと横目で彼女を見て、視線をすぐに手元に戻した。


よし、忘れ物はない。

これから訪問予定のお客さんは、中々手強い。

前回はああでもない、こうでもないと言われたので、今回はそれを論破できるだけの資料を揃えた。


訪問すること、15回。
今日こそ契約にこぎつけてやる!



外回りに出掛ける準備を整え終えて鞄を閉じると、またしても隣から更に大きな溜息が聞こえてきた。


「はぁぁぁ〜」


今度は机に向けてじゃなく、思いっきりこっちを向いての溜息だ。

それを無視して、私は向かいのデスクで仕事中の先輩社員に声を掛けた。



「高村、外勤してきます。それじゃ」



「ちょっと! 円香先輩、待って下さいよぉ!

可愛い後輩の溜息を無視するなんて、ひどくないですかぁ?
も〜、私、すねちゃいますからね、プンプン」