Engage Blues
第一話

夜の帰り道、いきなり棒手裏剣で襲われました。










 待ちに待った火曜の夜。
 片付けもそこそこに職場の飲食店を飛び出した。


 薄暗い路地裏でも足取りは軽い。
 最寄りの駅を目指して一直線だ。



 寄り道もせず、帰途につく。
 家には同棲している愛しい彼氏がいるはずだ。
 どちらも働いているのは同じなのに、週末は決まって美味しい料理を振る舞ってくれる。



『仕事お疲れ様。帰りは何時頃になる?』



 スマートフォンの画面に並ぶ言葉は、いつも素っ気ない。
 だが、わたしは気にしない。

 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、驚くほど優しい人柄であることは誰より知っている。
 我ながらいい男に惚れたなと思いながら、帰り道を早足で進む。
 嬉しすぎて無意識にスキップをしてたかもしれない。



 駅に着く直前。
 大通りに繋がる住宅地を通る最中、



「ふ……」


 急に鼻がむずむずしてきた。
 小走りだった足を止めて、悶えるだけの感覚が決壊する瞬間を待っていると。



「くしゅんッ!」



 カッ!
 大きなくしゃみで前屈みになった直後、何かが突き刺さる音がした。

 顔をあげれば、わたしと並ぶ電柱に黒い棒状のものが深く埋め込まれている。





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