Engage Blues
ぞっと背筋が凍った。
くしゃみが遅れていたら、わたしのこめかみを貫いていたかもしれない。
わかったところで、再び嫌な予感がした。
「はッ」
カカッ!
不安を感じて後ずされば、黒い影めがけて何かが飛び込んでくる。
乾いた音を立てて、アスファルトの地面に差し込まれているものは、
ボールペンのような黒い物体だった。
つま先の直前で止まっているけれど。
電柱に刺さっているものと同一のものだ。
双方を交互に見比べて、状況把握に勤める。
正体は、棒手裏剣だろう。
遊びにしては狙いが正確すぎる。
また通り魔や痴漢が使用する道具ではない。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
理性の声は、異常な事態が起こりつつある、気をつけろと告げてくる。
続いて、戦闘態勢をとれ、迎撃しろとも命令してくる。
わたしは後半にかけての忠告に、耳を塞ぐ。
指令のように響いてくる謎の本能を認めたくない。
そんな乙女の警戒マニュアルはないはず。
何なんだ、この危機感は。