気になるパラドクス

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「それで? 僕は村居さんを黒埼さんの“恋人”だと思って邪魔しなければいいですか?」

どこかあっけらかんと書類を差し出す磯村くんに、ミルクキャンディをかじりながら冷たい視線を返す。

「……磯村くんまでからかうの?」

「からかうのは嫁だけにしてます。でも面白そうだとは思います」

思わないで下さい。

飲み会の次の日には、黒埼さんに“お持ちかえり”されたと言う噂が蔓延っていて、他部署の人からチラチラ見られたし。後輩からは探られるし、ちょっとさんざんだから。

たまにしか現れない“フロッグすてっぷの巨人”は、社内でも目立つ存在だったらしい。

まぁ、あれだけラフな格好なら、それだけでも目立つとは思うけどさ。

「そう言えば磯村くん。業績トップおめでとう」

今月の売上報告を見ながら淡々と呟くと、磯村くんが一瞬固まって、それからこっそりと握りこぶしを握るのが見えた。

うんうん。素直じゃないけど、後輩くんのこういうところは可愛いよね。

「本当ですか?」

「嘘ついてどうするのよ。あの時任さん抑えてのトップなら、誇りに思っていいんじゃない?」

「……嫁をデートに誘ってきます」

くるりと反転して、スタスタと冷静に部署を出ていく磯村くんを、生暖かい視線で見送った。

……あの子は、事ある毎にノロケてくれちゃうよね。

考えていたら、なにかを思い出したように、磯村くんが戻ってきた。

「つい忘れていました」

シリアスな顔に、ちょっと引く。

「……何ですか?」

「今日の15時から、黒埼さん来ますから、それだけは伝えておこうかと思っていたんです」

……それはありがとう。

ポカンとする私に、磯村くんは真面目な顔をしたまま頷いて、また部署を出ていった。
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