気になるパラドクス
黒埼さんは何故かクスクス笑って、軽く首を振った。

「無理。俺は自分のしたいようにする人間だから」

気がつけば、人通りの少ないホテル街を歩いていて、まわりのネオンに気がつく。

黒埼さんは、どこか艶のある笑みを返してきた。

……少し待とうか?

自分のしたいようにするって、まさか……そういう事?

私、危ない? いや、危ないどころの騒ぎじゃないよね?

これってヤバイってレベルだよね?

「黒埼さん、私を今日は送ってくれるだけだよね?」

「……まぁ、そう言ったね?」

「なにもしないで、送ってくれるって……そういう意味だよね?」

必死に言い募る私を、黒埼さんはまじまじと見つめて立ち止まった。

「……何をそんなに慌ててるんだ?」

いや、慌てるでしょう?
普通はあわてふためくラインですよ!

こんなところであんな台詞を吐かれたら、慌てない方が無理って話で。

黒埼さんはまわりを見回し、それから納得したように頷くと、小さく呟いた。

「ここ抜けたら、タクシー乗り場に近道なだけ」

「……は?」

「いやー。飢えてても、さすがにそれじゃ“一夜の過ち”で済まされそうだし、今、そんなことしたら、本腰で無視されるどころか徹底的に排除されそうだし」

言いながら、また歩き始める。

「心配するな。そんなあっさりした関係で終わらせない関係にするつもりだから」

あの……別に、そこは心配する以前の問題な気がするんだよね?

ちなみに、どんな関係になるつもりなんだろう。

ぼんやり考えていると、タクシー乗り場について、タクシーに乗り込んでからまた私たちは言い争った。

つまり、どちらの家にまず向かうのか、と言う部分で。

「お前の家まで送らせないなら、俺の家に連れ込むぞ」

あっさり敗けを認めた私が、無言でマンションの手前でタクシーを降りると、黒埼さんは楽しそうに追い払う。

「俺がお茶飲ませろとか言い出す前に、さっさと入れ」

それも嫌なので、さっさとマンションのエントランスに入ると、タクシーが走り出す音が聞こえた。

……なんだろう。

なんだか頭が混乱する。










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