俺様当主の花嫁教育
妬み嫉みのラプソディ
ある日曜日、銀座の歌舞伎座に連れ出された。
映画やドラマにも出演していて、私でも名前を知ってる歌舞伎役者が座長を務める舞台観劇が目的だった。


現代ドラマで演じている姿を見て舞台も興味はあったけど、歌舞伎なんて敷居が高いし、同じように観劇料も相当高いだろう。
御影さんにシレッと連絡をもらった時には、ワクワクする気持ちはあったけど、チケット代どうなるんだ!?と尻込みしてしまった。


お金の心配をしてしまうのは、私が庶民なんだから仕方ないと思うけど。
『チケット代幾らですか?』と訊ねた私に、ものすごい嫌悪感丸出しの目を向けた御影さんは、無言でチケットを私の手に押し付けて来た。
それを見て納得した。


『関係者招待券』


……ですよね。
よく考えれば当然だったと思ったけど……。
呆れているのか怒っているのか、御影さんはその日終始不機嫌だった。


チケット代を気にして何が悪いの!?と、私にまで彼の不機嫌は伝染した。


きっと御影さんは私のことを『貧乏くさい』とか思ったんだろう。
でも仕方ないじゃない。
私は名家のお嬢様でもなく、ごく一般家庭に生まれて一般的な金銭感覚を養ってきたどこにでもいるOLなんだから。


趣味や道楽に湯水のようにお金を使えるご身分じゃない。
それは御影さん本人も揶揄して口にしたくらいだから、もちろん知っているはずだ。


やっぱりあの人とは、何もかも感覚が違う。
この数週間で距離が狭まったような気がしていたけど、御影さんが言う通り、本当は隣を歩くのもおこがましい。


観劇を終えてその場で御影さんに開放された私は、寂しく思う自分に言い訳しながら、一人マンションに帰るのだった。
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