俺様当主の花嫁教育
「西郷の暴言を許したことを俺に申し訳ないと思うなら、初めて会った時の勢いのまま、見返してやれ。そうしてくれれば、俺の日本文化人としての指導力も評価される」


そして、低いトーンの声で、ゆっくりと諭すように私に告げた。


「は、は……」


私の復讐を、自分の私利に置き換える。
そんな御影さんの態度が不遜で腹立たしいと思うのに、私は思わずそんな笑い声を漏らした。


自分の為とか、最低。
本当に私が大和撫子になったとしても、この人は息をするようにスマートに、私をこき下ろすんだろう。
そう思うのに。


「……っ……」


我慢の臨界点を越えて、堪えていた涙が溢れ出す。
止められないまま涙が次々と頬を伝った。
私を見やっていた御影さんが、ギョッと目を丸くした。


「……おい」

「す、すみません」


慌てて取り繕うように謝罪して、私は顔を背けて隠した。
しゃくり上げそうになるのを必死に堪えて、呼吸のリズムが乱れる。


御影さんは長い腕を伸ばして、両手で顔を覆う私の頭を軽くポンと叩いた。


「あんな男の為に流せる涙が残ってるなら、俺の為に頑張れ。志麻、いいな?」


いつもの私なら、この過剰な自信に満ちた御影さんに、もう一言くらい言い返すことが出来ただろう。
だけど、めり込むほど弱気になった心を、こうも強引に引っ張り上げられたら、私はこの腕に必死に縋るしか出来ない。


足元は覚束ない。
ただ、私をどん底から引き上げる強く逞しい腕を信じるしかないのだ。


声に出して返事は出来ないけれど、私は大きく一度頷いた。
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