俺様当主の花嫁教育
御影さんは厳しい表情を浮かべて、腕組みを解かないままで私に顔を向けた。
その涼しい視線が突き刺さるようで、呆れを通り越して、今度こそ見放されたと思った。


今週一週間来なかったのも、自分を不機嫌にさせた私に稽古をつけても無駄だと思ったんだろう。


「もう、特訓なんかいいです。大和撫子になんか、なれなくていい。御影さんの言葉が、西郷さんをコテンパンにしてくれた、それだけで私、もう十分ですから」


そう、こんなことして、一体誰の得になるんだろう。


そもそも、最初から無駄でしかないのだ。
私が本当に礼儀作法やら和心やらを習得してしまったら、困るのは御影さんの方なのだ。


「……私が誰もが振り返る着物美人になれちゃったら、御影さんが困るだけじゃないですか。なのに……!」


心に浮かび上がる思いをそのまま言葉にしているうちに、言いようもない惨めな思いが強まっていく。
一度堪えたはずの涙が瞳にジワッと滲み出ていく。


「俺は別に困らないから、頑張れ」


湧き出た思いを叩き落とすような御影さんの静かな声に、私は大きく目を見開いた。
涙を湛えた目を、御影さんに真っすぐ向けてしまう。
御影さんは長い足を組み換えながら、ゆっくり私に身体ごと向き直った。
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