オフィス・ラブ #∞【SS集】

「一哉、母さんは?」



お父さんがそう言うのに、そういえば姿が見えないことに気がついた。



「さっき、裏庭のほうに行くの、見たよ」

「そうか」



お兄ちゃんの描いた絵を感心して眺めたあと、お父さんがもう一度庭へ出た。

私は家の中を通って、裏庭が見える窓のある廊下へ回った。


そっと網戸だけにしてのぞくと、明かりの差さない裏庭で星を見ていたらしいお母さんが、ぼんやり見えた。

友達みんなが、若くて綺麗だねって言うお母さんは、こうして見てると本当に綺麗。


お父さんが、家を回りこんで、裏庭に入ってきた。

きっと、お母さんを呼ぶ。

ふたりだけの時の、呼びかたで。


私は、めったに聞くことのできない、お父さんのその声が好きだった。

優しくて、いつもと全然違って、なんていうか、ドキドキする。


お母さんは、まだお父さんに気がつかずに、のんびり夜空を見あげてる。

お父さんがそれを見て、少し笑ったのがわかった。


ゆっくりと近づきながら、お母さんを呼ぶ。



「恵利」



ぱっと振り向いたお母さんは、嬉しそうに笑って、子供みたいに片手を差し出した。


お父さんは近づいて、その手をとると。

夢みたいに優しい、キスをした。





Fin.

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thanks : イエロー様/noname様/みさす様

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