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ハロウィンなんて、あっという間に遥か彼方に追いやられた12月に入ってすぐの水曜日。
仕事を黙々としていたら、総務課の主任である野間さんが、私の顔を見るなり困った顔をした。

「いい加減、前髪切らないと目が悪くなるよ、松浦さん」

野間さんは、パーマのかかった髪をポ 
ンパドールにしている。
片や私は、腰まで伸ばした髪をバナナクリップでひとくくりにして、前髪は鼻くらいまで伸びている。

「これくらいがちょうどいいんです」

鬱陶しいと言われる事も多いけど、それが私にはちょうどいい。
しかも、いつも俯き加減に歩いているから、邪魔そうに見えて実は邪魔じゃないんです。

「……何かご用ですか?」

総務課と経理課と人事課がそれぞれの課で集まっているけれど、ワンフロアでさほど広くはない執務室。

総務の野間さんは凛としながらもいつも忙しくしていて、用もないのに経理事務の私のところまで、わざわざ席を立って来るのは珍しい。

「あ。ちょっとお願いがあって。お使いに行ってきてくれるかな」

ほつれて落ちてきた髪をかき上げながら、野間さんがニコリと微笑む。

「お使い……ですか?」

「H区のフリマイベントの設営図、忘れていったバカがいて」

「お届けすればいいだけですか? 現在、月次報告書の閉め切り間近で設営手伝えとか言われたら困ります」

野間さんはうーんと唸って、顔をしかめた。

「……人使い荒いのがひとりいる。でも、野間さんに報告書上げろって言われてるからって断っていいよ」

「それで通りますか?」

以前もそう言われて、コンサートの荷物チェックに駆り出されたんだけど。

「締め上げられる、とでも言いなさい。もしくは相手の名前聞いて野間に報告してくださいって」

封筒を渡されて小さく息を吐いた。

お使いは苦手なんだけどなー。
でも、野間さんがこれを私に持って来るって事は野間さんも忙しいんだろうし。

「行ってきます」

「よろしくねー」