季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
ふわふわとあたたかな夢から醒めた私は、ぼんやりとした頭で壁を見つめた。

なんだ、この感じ。

夢の中の私は、誰かの腕の中で幸せそうに笑っていた。

私を抱きしめていたのは誰だろう?

なんとなく壁時計に目を向ける。

そうか、10時半か…。

ん…?確か今日はマスターと…。

「ああっ!!」

夕べなかなか寝付けなかったせいで、予定より大幅に寝過ごしてしまった。

慌てて飛び起き、マスターとの約束の時間になんとか間に合わせようと、必死で身支度を整える。

珍しく部屋にいた順平がリビングでコーヒーを飲みながら、バタバタと行ったり来たりしている私を横目で見ている。

「やっと起きたと思ったそばから慌ただしいやつだな…。」

誰のせいでこうなったと思ってんだ!

「出掛けるのか?」

「うん。もう少しで遅れるとこだった!」

「やけに着飾ってんな。化粧濃いぞ。」

「ほっといてよ。」

「ふーん…。デートか。」

だからほっといてって言ってるのに。

順平は立ち上がり、返事をしない私の腕を掴んで引き寄せた。

「行くな。」

「…え?」

「…って言ったらどうする?」

何それ、バカじゃないの?

「時間ないの。離して。」

「そんなにマスターが好き?」

責めるような目でまっすぐに見つめられ、私は咄嗟に目をそらして、順平の手を力いっぱい振り払った。

「…アンタには関係ない。」

順平は何か言いたげに立ち尽くしている。

私は順平の方を見ないようにして、急いで部屋を出た。




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