季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「朱里…順平と何があった?」

「違う…。」

「だったら誰がこんな事…!」

早苗さんが声を荒げた時、後ろから乾いた笑い声が聞こえた。

「俺だよ。俺がやった。」

意地の悪い笑みを浮かべながら、順平が近付いて来る。

「めちゃくちゃにしてやったんだよ。もう二度と他の男のところに行けないように。もうやめてって泣き叫ぶほど一晩中抱いてやった。」

「やめて!でたらめ言わないで!!」

「ちゃんと証拠があるだろ?首にも、胸にも、オマエの身体中に。」

早苗さんは順平の胸ぐらを掴んで睨み付けた。

今にも殴りかかりそうな勢いだ。

「殴りたいの?殴りたきゃ殴れば?だけどこいつは俺のだ。どうしようが俺の勝手だ。絶対に誰にも渡さない。」

「朱里はものじゃない。傷付けていいわけないだろう!!」

「も…やめてよ…お願いだから…。早苗さんもやめて…。」

一触即発の事態にどうしていいかわからず、怖くて足がすくみ、涙が溢れた。

「早苗さん…。」

とにかく止めなきゃと、震える手で早苗さんの背中にしがみついた。

早苗さんは順平から手を離し、強い力で私を抱き寄せた。

「やっぱり夕べ朱里を順平の部屋に帰すんじゃなかった。朱里、うちにおいで。こんなやつと無理して一緒に暮らす必要なんてない。」

「離せよ。俺のだって言ってんだろ?朱里、こっち来い。」

順平が私の手を強く引っ張る。

こんなの私が好きだった順平じゃない。

順平はもう変わってしまったんだ。


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