それだけが、たったひとつの願い

7.四年後

*****

 それから四年の月日が流れ、私は二十六歳になっていた。
 ジンとはあの映画デートを最後に一度も会っていない。

『どこにいるんだ? 連絡がほしい』

 四年前、私が消えたとわかった日にジンから連絡が来ていた。

 迂闊だった。スマホはすぐに番号を新しくしたものの、アプリは引継ぎをしたからメッセージアプリのほうにジンから連絡が来てしまった。

『お元気で。素敵な俳優さんになってください』

 どうしたものかと悩んだ末に私はそう返事をして、すぐにすべてのアカウントを削除した。
 正確に言うと、ジンとはそれが最後だ。

 母校の演劇部のために書いていた脚本の執筆も辞めた。
 趣味の範囲なら続けても誰にも迷惑はかけないけれど、書こうとするとジンを思い出してつらくなるから。


「由依ちゃん、応接室の社長のお客様にお茶をお願いできる?」

「はい」

 私は今、イベント企画や映像制作を請け負う会社で事務として働いている。

 四年前、新しいバイトを探すのも大変だろうと甲さんがこの会社を紹介してくれた。
 情けないけれどこの会社に入れたのは甲さんのコネだ。

 
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