約束の場所で、貴方と。
約束の場所で、貴方と。
「君が望めばいつでも会えるよ」

彼がそう言ったように、それからというもの、私が疲れてその部屋に行くと、いつも彼が待っていた。

いつも彼は私を笑顔で迎えてくれる。

私はその彼の笑顔で心が満たされている自分に気がついた。


「…これまで、この部屋であなたと、会う事がなかった事が不思議…」
この部屋の事を知る人は限られているし、誰も滅多にこの部屋には訪れない。

それを知っていたから、私にはずっとこの部屋が安らぎの場所だった。

彼もこの部屋が安らぎの場所だと話していたのだから、8年も二人が顔を合わせる事がなかった事が、私には不思議でたまらなかった。

この部屋で彼と会っていると、まだ出会ってから一ヶ月と少ししか経っていないというのに、私はずっと何年も前からこうして彼と同じ時を過ごしていたような錯覚をおぼえる事がある。

心地よくて懐かしくて。

私の心は、一人でこの部屋に訪れていた時に感じていた安心感を、彼から感じていた。



「君が俺に気がつかなかっただけで、俺はずっとここにいたよ」

この部屋には棚がいくつもあるから、棚の陰になっていて、私が彼をいるのを見逃してきたのだろうか?

「君がいつも一人で声を押し殺して泣いていた事も、この部屋で誰よりも一生懸命に仕事をしていた事も全部覚えている」

彼は優しく微笑むと私を抱きしめた。
私も彼を抱きしめる。

私たちは、この部屋でしか会う事がない。

…ああそうか。
彼はこの部屋にとても似ているのだ。

この部屋が私を受け止め包み込んでくれる静寂。

私はたったそれだけの事で、落ち込んだ心の落ち着きを取り戻し、何度もこれまで仕事を続ける事に戻る事が出来たのだ。


私の大切な大切な、秘密の部屋と彼。


「もう離れないで…」
私は彼の目を見つめて心からそう願った。


「俺はずっとここで君を待っているよ。君から目を離す事が俺にはもう無理だから。ずっとこうして君にふれたかったんだ」
彼はそういうと、私の手を取った。

繋いだ手が離れてしまわないように、私も彼も握る手に力を込めた。



二人で約束をしたこの秘密の場所で、貴方と私は何度も巡り会い、これからもずっと一緒の時を刻んでいく。



*完*



*書庫を擬人化してみました。
それっぽく感じてもらえるとうれしいのですが。。どうでしょうか?


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