やさしい先輩の、意地悪な言葉
都合のいい女
ある日のこと。

仕事が終わって帰り支度をしていたら、携帯に着信があることに気づいた。


私の好きな人からだった。



私は、この時間なら誰も来なそうな給湯室に移動し、その人に折り返し電話をかけた。




「もしもし、隆也(たかや)? うん、うん。……え、今夜?」

急に呼び出されたけど、今日はもう仕事終わったし、このあとの予定もないし大丈夫か。

……なにより、電話くれてうれしいし。



「うん、大丈夫だよ。夕飯? うんわかった、作るね。なにがいい?

うん、わかった。
あ、あとほかになにか欲しいものとかはある? なにかあれば買ってくけど。

うん、うん。
じゃあ、これから隆也の家行くね。またあとで」


通話を切って、これから隆也に会えることに静かに喜びを感じていると。



「電話、終わった?」

と、後ろから声をかけられた。

振り向くと、そこにいたのは神崎さんだった。


「あ、はい! す、すみません私用の電話を!」

「いやいや、仕事終わってるし全然いいよ。俺もひと息ついてコーヒー飲もうと思って来たところ。給湯室、入ってもいい?」

「も、もちろんです! あっ、私コーヒー淹れますね!」

神崎さんは「ありがとう」と答えて給湯室に入ると、そのモデルのようにスラッとした体の背を壁に預けながら立った。



……やっぱりかっこいい人だな、なんて、コーヒーの用意をしながら思ってしまう。

神崎さんを恋愛対象として見ていないにしても、神崎さんのことを素敵だと言う女性社員のみなさんの気持ちはすごくよくわかる。
背は高くて、足は長くて。銀行員らしい黒髪はいつでもサラサラしてて。

目は大きいし、眉は切れ長でキレイだし、目鼻立ちも整っていて……芸能人みたい。



給湯室は狭くないから普通にふたりくらい入れるけど、私の電話が終わるまで、外で待っててくれたんだろうなぁ……。すみませんでした……しかも私用の電話で……。
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