彼女のことは俺が守る【完全版】
 季節は春から夏に向かう日のこと。


 何の変哲もない極々普通の木曜日だった。


 その日は天気予報では快晴だったはずなのに、大陸からの強風の為か雲が流れてきている。そんな雲に彩られるように飾られた茜色の空を見ながら、私は明日の天気を気にしていた。別に明日が晴れになろうと雨になろうと関係ないけど、気になるのは土曜日のことがあるからだった。せめて明日に雨が降ってくれれば、きっと土曜日は晴れてくれるだろうという自分勝手な思いがある。


 週末の土曜日は久しぶりに仕事の休みが決まっている。この頃、仕事が忙しく休日も返上して仕事をしていたから、ゆっくりと出来ると思うと顔が綻ぶ。


 それにこんな早い時間にこの道を歩くのも久しぶりだった。いつもは真っ暗になって前を向き一心不乱に道を歩くから、季節が変わっていたのにさえ気付かなかった。夜になっても気温が高く蒸し暑くなってきたとは思っていたけど、時間によって、こんなにも太陽の陽射しが眩いのだと改めて思う。


 既に夏のジリジリするような陽射しに目を細めてしまう私がいて、こんなにも仕事に没頭していたのかと自嘲してしまう。それでも顔が綻ぶのは久しぶりにいいことがあったからだった。


 事の起こりは一本のメール。


 会社の昼休みに化粧直しを終わらせて自分の席に戻る途中に、ランチタイムに持っていくミニバッグがぶるっと震えて私は自分の携帯電話の電源を切り忘れたことに気付いた。
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