彼女のことは俺が守る【完全版】
 そう言った彼の真摯な瞳に私は自分の記憶が緩やかに戻ってくるのを感じた。そして、彼の綺麗な微笑みが私の脳裏にある微かな記憶が彼の存在と名前を導き出した。

 
 一番最初に思ったのは『どうして?』そして、その次が『まさか?』でも、どうしてこんなところにこの人がいるのだろう。


 私に微笑みながら話しかけてきたのは日本を代表する若手実力派俳優である篠崎海(シノザキカイ)その人だった。


 端整な容姿だけでなくモデルをしていたのでスタイルも抜群だし、俳優としての演技派として実力も定評がある。それに雑誌でみた『抱かれたい男ランキング』の上位にいつも名前を連ねていたような気がする。


 全く芸能界に興味のない私でもさすがに篠崎海のことは知っていた。ランキングとかは会社の後輩の女の子に無理矢理見せられた情報だけど、それも納得してしまうほどのオーラを醸し出しながら私を見つめていた。


「どうしてこんなところにいるのですか?」


「俺だってコーヒーくらいは飲みますよ。で、俺の奥さんにならない?」


 彼はクスクス笑いながら、本当か嘘か分からないような言葉を零したのだった。コーヒーを飲むにしてもわざわざこんな喫茶店で飲む必要もないだろう。でも、現実に彼はここに居て、私を見つめ微笑みを浮かべている。篠崎海の登場とその言葉はさっきの『元彼と元友達の結婚宣言』の衝撃を半分くらい吹き飛ばした。


 え?俺の奥さんにならない?


 どういう意味?
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