甘いささやきは社長室で
「……少なくとも私は、あなたのそういうところは尊敬しているつもりです。普段の行いは最低ですけど」
ぼそ、とつぶやいたかわいげのない言葉に、それまで驚いたように聞いていた桐生社長は、「最低って」と小さく笑う。
作った笑顔じゃない、無意識にこぼされたいつも通りの明るい笑顔につられるように、自分の顔が緩むのを感じた。
「マユちゃんもそうやって笑えるんだね。笑顔、初めて見たかも」
「そりゃあ人間ですから。笑うくらいします」
ただ普段怒ったり無表情でいることが多いだけで、と心の中で付け足す私に、桐生社長はそっと手を伸ばし、右手を私の頬に添えた。
「ありがと、マユちゃん」
『ありがと』そう伝えた彼は、柔らかな微笑みを浮かべる。
細められたその目が、いとおしむように頬を撫でるその指先が、胸をドキッと強くときめかせた。
……少しだけでも、伝えられたのかな。
諦めていたその心に、私の心の思うもののほんの一部でも。
そうだったら、嬉しい。その感情は微笑みとなってこぼれた。