甘いささやきは社長室で



「桐生社長が、自分のご両親を見てショックだった気持ちも分かります。所詮、って失望してしまう気持ちも、分かります。けど、それであなたが諦めるのは違うと思うんです」



離れてしまった、責め合う家族を見て、悲しかっただろう。

いつか自分が誰かを信じても同じことになるかもしれないと、それなら最初から期待しなければいいと、諦めれば楽だろう。

だけど、それは違うと思う。



「桐生社長は、桐生社長です。お父様ともお母様とも違う人間です。だから、幸せを夢見ることを諦めたらもったいないです」

「もったいない……?」

「えぇ。本当は真面目で努力家なあなたと共に生きたいと願う人も、いるはずですから」



好きな人を信じて結婚したいとか、幸せな家庭をつくりたいとか、そんな夢を見たっていいと思う。

その夢を重ねられる人は、きっといるはずだから。



その婚約者の彼女なのか、他の誰かなのかはわからない。

だけど、どこかにきっと。あなたの笑顔の下にあるまっすぐな瞳に惹かれる人が、いるはずだから。




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