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さて、時間は少しだけ遡る。

神崎の “ 福原真由美目撃時刻 ” より、ほんの一時間前。

真由美は、星空の下ではなく、まだ建物の中にいた。

建物というのは、焼き鳥をメインとした大衆居酒屋だ。

店内にはタレの匂いと香ばしい炭の匂いが立ちこめていて、座席同士は、これでもかというほど詰めた造りになっている。


「最近、どうなんだ?仕事」


真由美の正面に座る男が、軽快な声で尋ねた。

男は、真由美の直毛とは真逆で、やわらかい質感の茶色い髪の持ち主だ。

頭のてっぺん部分の毛が、店内の冷房の風でふわりと揺れている。


「うん……やっぱりまだ、落ち込んじゃうことが多いかな……」


真由美はそう言って、目の前にあった焼き鳥を口に運ぶ。

タレではなく、塩味のものだ。ざらりとした粒の感触を舌で味わい、真由美は油味をおびたしょっぱさを噛みしめる。


「でも……少しは前向きになれてるかなって、思う。ちゃんと反省できるなら大丈夫だって、言ってくれる人も、いるし……」

「へえ、先輩かだれか?」

「あ、えっと……うん……」


少し言葉を濁して返事をすると、ちょうどテーブルに、新しい品が運ばれてきた。

皿に乗っている串は一本で、大きな丸いつくねが三つ、刺さったものだ。

どうやら、男が注文したものだったらしい。男はひょいと手を伸ばすと、その皿を、自分の方に近づけた。