不器用ハートにドクターのメス

一緒についてきた卵醤油のタレを、ためらいなくドバッとかけ、箸で、串からつくねを抜き取る。

三つとも全部抜き終えた後、男は、真由美に聞いた。


「つくね一個いるか?真由美」


その問いかけに、真由美は嬉し気にうなずく。


「うん!ありがとう――お兄ちゃん」


――お兄ちゃん。


そう。今、真由美の正面に座り、この一時間後に神崎が ” 福原の恋人 ” と勘違いしてしまうことになる男とは……なにを隠そう、真由美の実の兄だった。

今の今まで登場してこなかったが、実は真由美には、5つ離れた兄がいたのだ。

兄――福原廉次は、昨年結婚して家を出ており、現在は一緒に住んでいない。だが、福原家は3人ではなく、元々は4人家族だ。

幼い頃から、兄・廉次は、真由美の良き理解者だった。

外見のせいで多大な勘違いを受け、一人で過ごすことが多かった真由美に、常に優しい言葉をかけ、様々な場所に遊びに連れて行ってくれた。

そんな廉次は、真由美と全くと言っていいほど似ていない。

真由美ががっつり父親似なのに対し、廉次は母親方の血を強く引いていて、癒し系の可愛らしい顔つきをしている。

ふわりと空気を含んだ茶色の髪に、子犬のようにくりっとした瞳。女として生まれていればそれは楽に生きられただろうという外見だ。

性格も社交的であり、だれの懐にもするりと入り込むことができる。

とどのつまり、世渡り上手という人種だった。

< 158 / 260 >

この作品をシェア

pagetop