浅葱の桜
第一章 〜桜色の残影〜

新しい場所で




目を覚ました場所は全く知らない場所だった。


今、私は部屋の中にいる。いつもはいないはずの部屋の中に。


馬車の中じゃ……ない。



「ここは……どこ……」

「……ようやく目覚めたんだ」

「っ!?」



呆れたような声が降ってきて、思わず体を強張らせる。


そこには胡座をかいて座った男の人がいる。


普段の生活で男の人と滅多に近づかない私は急いで彼から離れよう……としたのだけど?



「縄?」



ぐるぐる手首足首に縄が掛けられていて。



「……説明すんのも面倒だな。……とりあえず、運ばせてもらう」

「へっ?」



理解できないまま、ヒョイっと抱えあげられる。


……肩に。それこそ、米俵を運ぶかのように。



「わ、私は! 荷物じゃないっです!」



ジタバタ暴れるものの、縄で動きは阻害されるし、彼の視線で動けなくなってしまった。


冷え切った瞳。


……怖い。なんなの、この人⁉︎


殺されるっ!


そう、最近だけで何度思ったことか。


抵抗したところで無駄だと悟った私はそのまま運ばれた。



どうか、誰にもすれ違いませんように。


この状況では奇異の目で見られるのは確実だ。


なんだかそれだけは頑として避けたかった。


人なのに荷物扱いされることに段々慣れてきた頃、ようやく私は降ろされた。


人なのに荷物扱いって……それに慣れ始めてた私って……。



「入って」

「は、はいぃっ」



戸を開けようとする。けど、手は後ろで縛られているわけで。


ぴょん、ぴょんと飛んで方向を変え取っ手を掴もうとしたけれど、その間に彼によって戸は開いた。


で、私は支えを失う形でその部屋に突っ込んだ。



「痛ぅ……」



いくら畳とはいえ、受け身を取れないとなると辛い。



「鈍臭っ」

「…………」



あなたのせいでしょう! とは口が裂けても言えなかった。


彼の機嫌を損ねてはいけないと本能が警告してきたからだ。



「こらこら総司、女子は丁寧に扱わなければいけないと何度も教えただろう」


奥から足音が聞こえてきたかと思うと私は体を起こされた。



「大丈夫か?」



その人ははっきり言って強面だった。いかにも武人って雰囲気を醸し出していて正直怖い感じだ。


でも、柔らかく笑んだその人はとても優しそうで少なくとも彼よりも信用できそうだ。



「あ、ありがとう。ございます」

「いや、いいんだ」



軽く会釈を返す。



「おい、近藤さんよ……。誰にも優しいのはいいが、その小娘にまで優しくする必要はあるのか?」


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