ゆえん

Ⅱ-Ⅵ



音根高校で望月順一の噂を耳にしたのは、九月の中旬だった。

先週発売になった週刊誌を学校に持ってきた奴がいて、大手メーカーのお家騒動のタイトルで望月家のことが書かれていた。

俺はその時初めて、月の角を持つ鹿のマークが有名な家電メーカーの社長の苗字が望月であることを知り、そしてその息子が楓の父である順一氏だということを知った。

記事には順一氏が謎の死、そして、順一氏に横領疑惑があることを読者の興味をそそるように書いてあり、そして腹違いの弟、克則氏との確執なども書かれていた。

順一氏が亡くなり、克則氏が後継者となったが、社長との折り合いが悪いことも書かれており、今後の会社経営に関しても不安材料が多いことを挙げている。


「横領だって」

「女に貢いでたって、アメリカの女性にかな?」

「それが発覚してから謎の死って、なんか裏がありそう」

「この望月って、一組の望月楓の父ちゃんだってさ」

「えー、そうなの」


周りは好き勝手に話を膨らませている。

俺でさえ、知らなかったことである。

こんな週刊誌の記事を見つけ、持って来る奴さえいなければ、このことを知る人間はほとんど居なかったはずだと思った。


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