ゆえん
「瞳さんは何の仕事してるんだ?」
「駅前のレストラン。お昼前から行って、夜九時まで働いてる。制服が可愛いって喜んでやっているみたい。で、家に帰ってきたら、医療事務の資格を取る勉強をしているの。私が進学できるように、パパの生命保険には手を付けたくないって言って頑張っているよ」
「そっか」
「パパが亡くなった後の一ヶ月間は、ママが死んだみたいになってた。たぶん本当は、そんな自分に決別するためにママって呼ばせないようにしたんだと思う。どう呼んでも私にとってはお母さんなのに、変でしょ」
口元は笑っている楓の目が潤んでいた。
「楓はどこでバイトしているんだ?」
「私はクリーニング店。中で、袋に入れる作業とか、仕分ける作業だから、無届でもばれないから」
「そっか」
「もっと時給がいいところに行きたいのだけど、なかなかいいところがなくて」
音根町では、アルバイトが出来るところはそんなにないだろう。
実際、俺の親の店でも高校生のアルバイトは使っていない。
この小さなアパートに瞳さんが帰ってくるまでの時間を楓一人で過ごさせるのが可哀想に感じた。
「瞳さんが帰ってくるまでいるよ」
楓は静かに首を振り、にっこり微笑んで見せた。
「私たち、そんなに可哀想じゃないよ。大丈夫。毎週木曜日は、私のアルバイトが休みだから、また遊びに来てね」
自分が可哀想かどうか考えたことのない俺には、自分で可哀想じゃないと言う楓がより可哀想に感じた。