ナイショの恋人は副社長!?
本心


夜道に鳴り響く着信音。
敦志は、それが自分のものだとわかると、もしかして優子からかと慌てて携帯を取り出した。
しかし、その期待は呆気なく打ち砕かれ、敦志は一度唇を噛んで電話に出る。

「はい。早乙女です」
『芹沢です。突然申し訳ありません』
 
電話の主は、部下である芹沢だった。
敦志はついさっきまで取り乱していた様子を微塵もみせず、落ち着いて応答する。

「いいえ。なにか急用でしょうか? 電話をくださるのは珍しいですね」
『退社された後なのに、申し訳ありません。でも……少し気になったものですから』
「どうかされましたか?」
 
敦志が仕事中の顔つきに変わったのを、ヴォルフは横で何気なく見ている。
その視線に背くように、敦志は身体ごと横に向いて芹沢の答えを待つ。

『私は今、残業中なのですが、先程、『鬼崎さんの代理』と名乗られる男性から、早乙女さん(副社長)宛に電話がありまして』
「……なんだって!?」
 
敦志らしからぬ声を上げ、その表情が一変したのを目の当たりにした、ヴォルフは目を見開いた。
そして、日本語はほとんどわからないのに、敦志の言葉に耳を傾ける。

「鬼崎さんの代理って、一体誰なんだ!?」
『申し訳ありません……。名前を聞く前に通話を切られてしまいまして』
「用件は!?」
『それが……本日付で退職したい、と』
「――退職……!?」
 
受話口から聞こえた芹沢の声に愕然とし、固まってしまう。
 
このタイミングで『退職』と聞くと、その可能性もあるかもしれないと思った。
それは、やはり、先程の優子の別れ方が原因だ。

『ただ、鬼崎さんご本人ではないですし、なぜか人事部ではなく、こちらに直接電話がきましたし……。まして、こんな時間だったので、気になって。まずは、最近親しそうな早乙女さんに一報をと思いまして』
 
鮮明に蘇る優子の何か秘めたような表情を思い返し、芹沢の言葉を耳に入れる。
敦志は、少し考えるように路地の奥へ視線を向け、視点を元に戻して口を開く。

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