Love Cocktail
プロローグ
*****



お金持ちの人の考えることがよく解らない。

そう思ったのは、きっと私だけじゃないはず。

そんなに飲めもしない人間に注文を受けて、シャンパンが開封されるのを見ると……普通にもったいないと思う。

店に入ってくる時に、ちらりと見えたピシッと高そうなスーツに身を包んでいたあの男の人。
鼻の下が伸びまくりで、同伴した女性のことしか頭にないような顔。

あの手の見た目だけの気取りや屋さんは、ウンチクをたれるだけだと思うんだよね。

シャンパンの気泡が消える頃には、きっと酔い潰れている。
そんな人にはスパークリングワインで十分だと思うんだ。

シェーカーを振りながらぶつぶつ呟くと、いきなり後頭部をスコンと叩かれる。

振り返ると、またまた高そうな黒いスーツに身を包んだ長身。
少し伸びた前髪を無造作ながらお洒落にキメている、相変わらず綺麗な顔立ち。

うちのオーナーの一条裕さんが、少し引きつった笑みを浮かべ立っていた。

「……君の独り言は、たまに大きい」

「やだ聞こえちゃいましたかぁ~?」

ニッコリ微笑んで、出来たカクテルをグラスに注ぐ。

綺麗な薄桃色のバカルディ……に見えるシロモノ。
ただ、中身は一撃必殺、悪酔い間違いなしの撃沈カクテル!

「試作品なんですが。オーナーが試されますかぁ?」

グラスを差し出すと、オーナーは笑顔に冷や汗を流して後退した。

「君の試作品は、隆幸に任せた方がいい」

そうですね~。貴方、お酒は弱いし。

微笑みながら、首を傾げる。

「従兄弟さん、来てらっしゃるんですか?」

「ああ。だから、その他にノンアルコールのカクテルも……」

「早苗さんも来てらっしゃるんですね~?」

隆幸さんはオーナーの従兄弟さんで、秋元早苗さんはその彼女さん。

一度お会いして飲んだこともあるし、実は店で何回か見かけている。

イケメンな桐生さんと、とびきり美人な早苗さん。あのふたりはだいたいセットで行動しますね。

「では、こちらをどうぞお持ちになってください」

ニッコリとグラスをオーナーに渡して、次のカクテルの準備をする。

「……普通にオーナーを使う人間は、きっと君くらいだ」

「立ってる人は、親でも使うものですよ」

スラスラ言って、早苗さん用のフロリダを作り始めた。

それでも溜め息ひとつだけで、グラスを持って行ったオーナーに肩を竦める。

だって結局、桐生さんが来たらホイホイと顔を出すのがオーナーじゃないか。

どうせ行くなのなら、ウェイター替わりにして何が悪いと言うんだか……。
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