その男、猛獣につき
翻弄される猛獣

「何、やってんだ。俺」

逃げるようにして病院の中に入っていった有田の後ろ姿を見ながら、呟く。

 

思わず、急に掴んでしまった有田の腕。
掴んだ自分の右の掌が、か細い有田の腕の感触を鮮明に覚えている。

その掌を見つめた俺は、大きくため息をついた。

 

 
☆★☆
 

朝起きたら、土砂降りの雨が降っていた。

あいつ、そういえばコンビニに自転車で行くって言ってたな。

 

ふと、1週間前から実習に来ている学生のことを思い出した。

車いすバスケの練習の前に、少しだけ時間がある。

 

買い物、少しだけ付き合ってやるか。

近くのコンビニに連れて行って帰るだけ。

1時間もかからないだろう。

 

そう思って、有田が寝泊まりしている病院のリハビリ室に向かった。

 

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