アナタに勝てない
「ねぇ。知佳。そろそろ止めない?」
「いや!どうしてもこのコースをクリアしたいの」



そのコースにトライするの、これで何度目?なんて言ったら
絶対怒るからいわない。



「あ!やだー!もう」



だから、そのコーナーはドリフトしなきゃコースアウトするよ、ってさっき言ったのに。



「よーし。もう一回!」



結構しぶとい、というかしつこい、というか諦めが悪い、というか。
たかがゲーム如きにそんなにムキになる事ないと俺は思うけどね。


「ねー 知佳」
「うるさい!気が散るから黙ってて!」


やれやれ・・・
こんなに気持ちのいいお天気の日曜日に
部屋に篭ってゲームなんてもったいないよ、って言ったのに
「どうしてもクリアするんだから!」
とコントローラーを握り締めてから、もう2時間が経過した。


去年の忘年会のビンゴゲームで当たったというゲームは
シンプルで柔らかい色調の彼女の部屋にもうまく馴染む真っ白な限定モデル。
「何か使わなくなったゲームソフトを貸して」と頼まれて
いくつか見繕って持ってきたのはいいんだけど・・・
そいつに大切なお姫様を取られちゃって
後ろで背中を見つめながら溜息ついてクッションを抱えてる俺って哀れ。
以前は「ゲームなんて面白い?」と興味なさそうにしてたくせに
すっかり目の色変えちゃって。こりゃハマっちゃった、って事かな?



どうせ抱えるならクッションじゃなくて知佳がいいのに・・・



なんて溜息をついた途端、 「ねえ」といきなり振り返った知佳の強い口調と
眉間に皺を寄せた難しい顔に思わずたじろいでしまう。



「は、はい?」



うわ。誤解だって!別にヘタだからとか、そんな事思って
溜息ついたわけじゃないから!



「やってみて」



ものすごくテンションの低い声で言った知佳が
突きつけるように差し出したコントローラーを反射的に受け取りながら
「俺がやるの?」と聞けば「早く!」と背中で答えた彼女。




・・・あーあ。こりゃ相当ご機嫌ナナメだな。




これ以上ご機嫌を損ねないようにソファからすべり降りて
急いでリトライのボタンを押した。


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