イジワル同期とスイートライフ
少しずつ、少しずつ
「六条さあん!」



小声ながらもそう叫んで、花香さんが廊下をすっ飛んできた。

運営会議が終わったところで、幸枝さんは先にフロアに戻っている。



「すみません、私、知らないとはいえ、散々なことを」

「あっ、お聞きになったんですね、いえそんな、お気になさらず」

「今聞いたんです、本当に、なんとお詫びしてよいやら…」



青ざめて、大粒の涙さえ浮かべている。

そこに久住くんが追いついてきた。



「お前、謝罪のスピードすげえな」

「あんたね、こんな大事なこと、もっと早く教えろこのクッ…う、ぐ」

「あの、そこは出していただいていいですよ、気にしませんし」

「いえっ、そんなわけには」

「こう言ってくれてるんだから、本性晒しとけよ、名前負け」

「今なんつった?」



確かに名前は彼女の逆鱗らしく、一瞬で目を吊り上げて噛みつく。

久住くんは人の悪い笑みを浮かべ、私の肩に腕を乗せた。



「まあそういうわけなんで、今後俺の悪口は、お前のためにならないぜ」

「うん、六条さんの前では…我慢する」

「ほかにどこで言ってんだ、おい」

「あんたって、女の趣味だけは悪くないよ…」

「お前が言うか…」



悔しそうにしくしくと泣く花香さんの指を見て、あれっと思った。



「花香さん、それ…」

「えっ、あ」



私の指さした先を見て、ぱっと頬を染める。

久住くんも気づいたらしく、驚きの表情になった。

花香さんが、恥ずかしそうに頭をかきながら、エヘヘと笑った。



「先週もらったんです、来年には人妻ですわ」

「マジかよ!」

「すごーい、おめでとうございます!」

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