イジワル同期とスイートライフ
「奥さんも一緒でしたっけ?」
メニューを渡しながら久住くんが尋ねた。
向井さん、既婚だったのか。
「いや、置いてく。仕事辞めたくないってさ」
「単身かあ、楽しいって話と孤独って話、両方聞きますけど」
「赴任地によって違うんじゃないか? 地方だと厳しいらしい」
あー、と久住くんが納得した。
「じゃあ今回は平気ですね、ハメ外してる気配あったら俺、奥さんにチクるんで」
「マジでやめろ」
「奥さまって、社内ですか?」
訊いた私に、向井さんが少し照れくさそうに笑う。
「元、ね。今は転職してる」
「向こうでお仕事探すとか、やっぱり難しいんですか」
「海外駐在員の配偶者は、現地では就職できないんだよ」
久住くんが説明してくれた。
えっ、そうなの、なんで?
「なにかの決まり?」
「少なくともうちの会社規定でNGだし、そもそも国が禁止してるとこがほとんどだ。自国の雇用を守るためだろうな」
知らなかった。
「いいなあ駐在、俺も早く出たい」
「そろそろじゃないか? 何年目だっけ、お前」
「5年目です」
「現場として行くなら一番いいときだな、来年あたり話あると思うよ。そろそろ帰ってくる奴がいるだろ、それと入れ替わりに」
「せっかくならアジア狙いたいですね」
「今、一番面白い市場だもんな」
久住くんが頬杖をついて、にやりと笑う。
楽しそうにやりとりする彼らを見て、私は久住くんが、初めてWDMの会議に同席したときのことを思い出していた。
あのときもこんなふうに、違う世界の人だと思ったんだった。
今はもう、そんなこともないって、知ってはいるけれど。
でも、どうしてだろう。
最近少しずつ、久住くんが遠くなっている気がする。
メニューを渡しながら久住くんが尋ねた。
向井さん、既婚だったのか。
「いや、置いてく。仕事辞めたくないってさ」
「単身かあ、楽しいって話と孤独って話、両方聞きますけど」
「赴任地によって違うんじゃないか? 地方だと厳しいらしい」
あー、と久住くんが納得した。
「じゃあ今回は平気ですね、ハメ外してる気配あったら俺、奥さんにチクるんで」
「マジでやめろ」
「奥さまって、社内ですか?」
訊いた私に、向井さんが少し照れくさそうに笑う。
「元、ね。今は転職してる」
「向こうでお仕事探すとか、やっぱり難しいんですか」
「海外駐在員の配偶者は、現地では就職できないんだよ」
久住くんが説明してくれた。
えっ、そうなの、なんで?
「なにかの決まり?」
「少なくともうちの会社規定でNGだし、そもそも国が禁止してるとこがほとんどだ。自国の雇用を守るためだろうな」
知らなかった。
「いいなあ駐在、俺も早く出たい」
「そろそろじゃないか? 何年目だっけ、お前」
「5年目です」
「現場として行くなら一番いいときだな、来年あたり話あると思うよ。そろそろ帰ってくる奴がいるだろ、それと入れ替わりに」
「せっかくならアジア狙いたいですね」
「今、一番面白い市場だもんな」
久住くんが頬杖をついて、にやりと笑う。
楽しそうにやりとりする彼らを見て、私は久住くんが、初めてWDMの会議に同席したときのことを思い出していた。
あのときもこんなふうに、違う世界の人だと思ったんだった。
今はもう、そんなこともないって、知ってはいるけれど。
でも、どうしてだろう。
最近少しずつ、久住くんが遠くなっている気がする。