イジワル同期とスイートライフ
素直ってどういう
「なんというか、余裕のないスケジュールだねえ」

「申し訳ございません、当日はスタッフが一名つかせていただき、ご案内いたしますので」



本部長がこれみよがしにため息をつくと、部長が後を追うように首を振った。

大柄な身体に太い声の本部長は、国内部門で叩き上げた、典型的な営業畑出身の人だ。



「では、各コンテンツの概要を」

「あ、いいよいいよ、後でなんとなく目を通しておくから」



おざなりに手を振って制止されたので、出しかけた資料を、またしまった。

これは、当日の動きを『早く知りたかった』わけじゃない。

『早く"説明させたかった"』だけ。

まあ、上のそういう満足を実現するのも、下の務めだ。



「資料を一部お渡しいたします。更新され次第お届けいたしますので」

「後手後手にならないようにね。代理店にちゃんと言うこと聞かせてる?」



曖昧に笑みを返した私を、探るような目で眺め回し、本部長は「説明どうもね」と言い残して、部長を連れて会議室を出ていった。

説明に使った資料を片づけながら、気持ちが沈んだ。

代理店さんは、全力でやってくれている。

須加さんだって花香さんだって、文句のつけようのない正確さとスピードで、イベント成功のために動いてくれている。


それをあんなふうに言わせたのは、私だ。

久住くんが言ったのは、こういうことなんだろうか。

だからもっと悔しがれ、って。

不甲斐なさに、しばらく立ち上がるのも忘れた。


 * * *


「あっ乃梨子ちゃん、出社早々悪いんだけど、こっち来て」



翌日、会議会場であるホールで、下見を兼ねた打ち合わせをしてから出勤した私を、待ちかねたように幸枝さんが手招きした。



「あっ、それWDMの資料? ならそのまま持ってきてくれる?」

「えっ?」



なんだろう。

首をひねりながら呼ばれた会議室に入って、ぎくっとした。

久住くんがいたからだ。

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