イジワル同期とスイートライフ
まさかあんなふうに否定されると思わなかった。

私だって別に、今の状況がベストだなんて思っていない。

名前だって、覚えてもらえるほうが、そりゃ嬉しい。

でも、それがなによ?


すべてが円滑に回るように、入念に準備しているよ。

自分の動きも他人の動きも、全部把握している。


それでもダメなの?

裏方に徹するのは、プライドのない働き方なの?


久住くんにはわからないよ!


フロアに駆け込んで、説明の準備をするためにPCを開いた。

息を整えるひまもなく、アポを入れるためのメールを打つ。



「なにかあったの?」



声をかけられて、びくっとした。

隣に幸枝さんがいたことに、気づかなかった。

一瞬、聞いてほしいという気持ちが頭をもたげたものの、飲み込んだ。

幸枝さんに久住くんの話をするのが、耐えられなかったからだ。



「なんでもないです、この後、本部長説明をすることになって」

「いきなり? また営業課が無茶言ってきたんだね、手伝うよ」

「ありがとうございます」



指が震える。

なんとか泣かないようにするので、精一杯だった。


家に帰っても、久住くんはいない。

次に会う約束もない。

会いたいと思ってもらえているのかも、わからない。


遠い。

遠い。


ひっきりなしに打ち間違いをするキーボードを、引っ叩きたくなった。

わななく唇を噛んだ。


久住くんが遠い。

──遠い。


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