イジワル同期とスイートライフ
「家の鍵につける」

「お前、なんか男らしいのつけてるもんな」

「………」



今つけているキーホルダーには、なにもぶら下がっていない。

もとは姉のおみやげの、革の飾りがついていたんだけど、あるときちぎれてしまって以来、金具とチェーンだけをぶらぶらさせているのだ。

あんな殺伐としたものを見られていたと思うと、恥ずかしい。



「そろそろ食べる?」

「ん…」



煙草も終わる頃かなと思い、取り分けておいたお皿を彼のほうに移そうとしたら、なにやら生返事をもらった。

疲れすぎて食べる気力もないのかと、心配になりかけたとき、ぎくっと身体が震える。

手を握られたからだ。

テーブルの下で、誰にも見えないように。



「久住く…」



黙らせるように、握る力が強まった。

平静を装うのに、苦労した。

水のグラスを持つ手が震えた。


久住くんは頬杖をついて、短くなった煙草を吸っている。

私の視線に、気づいているだろうに、こちらを見はしない。

その手は、燃えるように熱い。


やがて、細いため息の音が聞こえ、煙草を持った手に額を押しつけるように、久住くんがうつむくのが見えた。

その目が一瞬だけ動き、私を捉えた。

切羽詰まった、火照った目。

露骨すぎるくらいに伝わってくる、むき出しの欲望。


一瞬で体温が上がった。

繋がった手と手の間で、お互いの鼓動が混ざる。



「俺、どうしちまったんだろ…」



手の陰で、困惑ぎみの小声で彼がそうつぶやいたとき、私もまさに自分について、同じことを考えていた。


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