イジワル同期とスイートライフ
すると私たちの会話を向かいで聞いていた幸枝さんが、シェア方式にしようと言いだしてくれた。



「適当に頼むから、好きに食べなよ」

「助かります」



メニューを彼女に預け、ふうとテーブルに片肘をついて煙草を取り出す。

この定例会の参加者たちは、奇跡のように喫煙率が高く、吸わないのは私と、購買部の男性だけだ。

夜を機内で過ごし、着くなり出社で、やっぱり疲れているんだろう、うつむいて煙を吐き出す横顔は、どことなくぼんやりしている。

テーブルにフードが並びはじめても、煙草を吸いきってから食べる気らしく、久住くんは手をつけようとしなかった。



「取ろうか?」

「いや、いいよ、サンキュ」



でも、みんなすごい勢いだから、出遅れたらなくなってしまう。

私は自分の分を取るかたわら、彼の分も取り分けておくことにした。

ふと久住くんが、スーツの内ポケットからなにか取り出して、私によこした。

テーブルの陰で、握り拳を押しつけるようにして渡されたそれは、布でできたかわいらしい花がついたキーホルダーだった。



「みやげ」

「え…」



揺らすと、金色の小さな鈴が、遠慮がちにチリ、と鳴る。

かわいい。



「嬉しい、ありがとう、わざわざ」

「世話になってるし」



久住くんがちらっとこちらを見て、きまり悪そうに微笑んだ。

他のメンバーは食事に夢中で、誰も私たちのやりとりに注意を払ってはいない。

膝の上にキーホルダーを置いて、こっそり、じっくり眺める。

これ、絹かな。

あっ、タイシルクか。

すごい、本当に嬉しい。

< 49 / 205 >

この作品をシェア

pagetop