イジワル同期とスイートライフ
冗談に紛らす余裕がなくて、つい普通に言い返してしまった。

久住くんはコーヒーを飲みながら、そんな私を楽しそうに笑った。


路線が同じなので、別れ際は電車の中だった。

先に降りた私が、動き出した電車に手を振ると、ドアの横に立った久住くんも、ひらひらと控えめに振り返してくれる。

物足りない、なんて、私も焼きが回ったものだ。



ひとりでも眠れるけどね。

どうしたって久住くんのことを考えてしまうんだよ、癪なことに。

掃除をしたり本を読んだりして、午後をぼんやりと過ごした後、適当な夕食を作って食べて、早々にベッドに入ることにした。


暗くした部屋で、もっと身体を動かしておくんだったと後悔した。

これは、あんまりいい眠りが訪れそうにない。

久住くんの匂いに包まれながら、焦がれるようなもどかしさに襲われる。


この間も、こんなだった。

でもあのとき眠れなかったのは、匂いが呼び覚ます記憶が鮮明すぎたからだ。

今じゃもう、久住くんの素肌の温度も思い出せなくなってきていて、そのことに気がついて、眠れない。


訊いていいかな、久住くん。

どうして私を、抱かなくなったの?



──暑い。

なんだか妙に暑い。

体調でも悪いのかなと心配になり、枕元のライトのリモコンに手を伸ばしたとき、思いもかけない感触に腕がぶつかって、心臓が飛び出しそうになった。

ベッドの中に、誰かいる!



「きゃーっ!」

「うわ!」



飛びすさった結果、私は背中から床に落ちた。

ぱっとついた明かりの中、久住くんが目をすがめ、私を見下ろしている。

並んで寝ていたんだろう、部屋着姿だ。



「え…え?」

「なに、寝ぼけた?」

「なにって、そっちこそ、なんでいるの」



まだ全身がドクドクと脈打って、震えている。

ああびっくりした、びっくりした。

久住くんは眉をひそめて、身体を起こすと、ベッドの縁に腰かけた。

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