後継者選びはただいま困難を極めております
1章:事業部長、兼森タイガ

疑惑

――それじゃあ、3ヶ月後のヒナちゃんの選択を、楽しみにしとるぞい――


タカミ財閥会長、高見惣右介のその一言で会談は打ち切られ、逃げるようにして会長室を後にしたヒナの後ろから――

「女ァ!!」

地獄の看守が囚人を怒鳴りつけるような声で呼び止められ呼ばれ、ヒナはその場で小さくとびあがった。
そのヒナにおいついてきたのは、金棒を背負った赤鬼……ではないが、おそらく現在の地球上において最も鬼に近い存在、兼森タイガである。
その鬼が、ヒナより頭ふたつは高い上背をこれでもかと発揮しながらヒナを見下ろし、罪人に接する閻魔大王さながらに、告げた。

「説明してもらおうか」
「せ、説明、って……………………なにを、でしょうか」

説明してもらいたいのは、ヒナのほうなのである。しかしタイガは、そんな言い訳を口にする余裕すら与えなかった。

「すべてだ! お前、会長といつ知り合った? どういう関係だ? 愛人ではないと言っていたが、俺の目は騙されないぞ。老齢の会長をたぶらかして、いったいなにをたくらんでいる?!!」
「あ……あ、あの……」
「さっさと話せ! 隠し立てすると、ためにならんぞ!!」
「きゃ……っ!」

タイガがヒナの腕をぐいとつかむ。その手のひらの熱さに、ヒナは思わず悲鳴をあげる。

「タイガさん、おちついて。そんなことしてセクハラ事件にでもなったらどうするんですか」
「セクハラって……お、おい、俺は、そんなつもりは」

トシユキの言葉に、タイガは慌てたようにヒナの手をはなした。

「それに、そんな怖い顔してたら、話せることも話せなくなっちゃいますよ、ねえ?」

最後の、ねえ、はヒナに向けられた言葉だったらしい。ヒナは、トシユキの笑顔に追従するように両手を胸の前でにぎりしめたままこくこくとうなずく。するとタイガは、わずかにゆるんだかと思った表情を、再び、いやさらに、険悪なものにした。

「高見、お前はだまってろ。その制服にIDカード、臨時雇いの事務職か。そこらの程度の低い仕事は採用基準もゆるいからな。おおかた、面接官に色目でもつかってもぐりこん……」

――役員室フロアの広い廊下に、パシィッ、と、小気味良い音が響いた。
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