後継者選びはただいま困難を極めております
「おい女! “はい”じゃないだろう!」

タイガの恫喝に、ヒナは思わず身をすくめた。

「え? え、え……あの……ごめんなさ……」
「お前の選択ひとつで、この会社の行く末が決まるんだからな! わかってるのか?!」
「わ、わかった……よう……な……?」
「タイガ、そこらへんにしておけ。ヒナちゃんが怖がっておるじゃろうが」

見かねた惣右介が、助け船を出す。

「しかし……会長、本気ですか?! この女が夫に選んだ相手にこの会社を継がせるって……全世界数万人、いや関連会社を含めれば数十万人の社員を路頭に迷わせるつもりですか?!!」
「女、ではない。ヒナちゃんじゃ。タイガ、ワシは、くだらん冗談を聞かせるために忙しく働く社員たちを会長室まで呼びつけたりはせんよ」
「しかし……」
「5分経過デス」

ロバートが手を挙げた。

「最初に申し上げた通り、私はそろそろ失礼しマス。では、タイガさんは後継者レースからははずれると」
「は?」
「そういう理解でよろしいデスカ」
「そうは言ってない!」
「なるほど、ではタイガさんも参加ということデスネ。理解しました。それでは、僕はこれで」

ロバートは、ちぢこまるヒナのほうへつかつかと歩みよったかと思うと、その手を取り――

「ミス・ヒナ、僕はこれで失礼します。デートプランは、後ほどあなたのデスクトップへお送りしておきますので」

――ヒナの手の甲に軽く口付けた。

「?!!!」

人生初の経験に、ヒナは耳まで赤くなる。そんなヒナに軽く手を振り、ロバートは会長室から出て行った。

「あのひと、もっと怖いひとかと思ってたんだけど……」

あっけにとられるトシユキ。
そしてタイガは、いかにもにがにがしげに顔をしかめた。

「……まったく、これだからガイジンは……」



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